禁古本屋

hozan2007-04-24

浅倉久志のエッセイ集『ぼくがカンガルーに出会ったころ』を読んでいたら、
思わぬ名前にでくわした。
以下、引用。

いったん高じたペーパーバック熱は、しかし、とどまることを知らない。
うまいことにその欲求を満たしてくれる店が見つかった。
戎橋筋と御堂筋の角を北へ入ったところにあるカエデ書店である。
間口一間半ぐらいのこの小さな古本屋さんはいまでもちゃんとあるが、
その後ぼくが大阪を離れるまで、十年近く重要なペーパーバック供給源に
なってくれた。
三日にあげずここへかよって、店頭の山を掘りかえすのが、学生時代の
ぼくの最大の仕事だったのだ。


このカエデ書店には、僕も思い出がある。
この古本屋は品ぞろえがいいので、しょっちゅう利用していたのだが、
ある日、本をいろいろ物色していると、いきなり店のおやじが言い出した
のだ。
「そんな見方してもらったら困るな!」
「そんなにあちこち本を見ても、ぜんぜん選ばれへんやろ」
「返品のきかん古本屋やねんから、丁寧に見てもらわな困る」

きっと、おやじの虫の居所が悪かったのだと思う。
早く帰ってくれと言わんばかりの暴言だった。
僕は、このカエデ書店が大好きで、よく通い、1度に多くの本を購入
していたのだが、店のおやじは、僕の顔を覚えていないらしい。
覚えていれば、僕がいろんなジャンルの本を1度に数冊は必ず買って
いることも覚えているだろうから、そんな失礼千万な物言いはするはず
がない。
また、わざわざ手を洗ってから古本屋に行って、丁寧に本を見ていた
僕の読み方を「困る」などと言われる筋合いは全くない。
僕は、そんなふうに嫌味を大声で言われてから、30分ほど店内で本を
物色し、(本の中身を見るなと言われたので、選ぶのに手間がかかった)
結局いろんなジャンルの本を数冊、金額にして2万程度支払って帰った。
店のおやじは、不承不承「ありがとうございました」と言っていた。
それからかなりの年数がたつ。
僕はそんなことがあってから、あんなにも日参していたカエデ書店に
2度と足を踏み入れていない。
本の品ぞろえはいい。本に罪はない。
しかし、客に対してあの態度はありえない。
ここはもはや「店」ではない、と判断したのだ。
浅倉久志が通っていた時代から考えれば、代もかわっていたと思う。
カエデ書店はその後、移転して、何度か店の前を通りかかったが、
あんなひどいおやじに扱われている本たちが不憫でならず、
店の中をのぞいたこともない。
客商売の「いろは」くらいマスターして店番してくれ。

写真は、そのときに購入した1冊