米つきバッタ

5月1日付の田中宇(たなか・さかい)の国際ニュース解説は「意味がなくなる日本の対米従属」
先頃の日米首脳会談について書かれている。
http://www.tanakanews.com/070501JPUS.htm


「 日本のマスコミ報道は、安倍首相とブッシュ大統領が、北朝鮮に対する制裁強化で一致するなど、安倍訪米によって日米が親密さを確認し合ったという見方で貫かれている。しかし、アメリカのマスコミでは、安倍に対して批判的だったり、日米関係がうまくいっていないという論調が目立った」


日米関係がうまくいっていないと判断する記事が、これでもか、と並べられる。


「就任から7カ月目もたってからの初めての首相としての訪米なのに、ワシントンに1泊しかせず、なるべく目立たないよう行動する。こんな日本の指導者は初めて」
北朝鮮は、拉致被害者のうち生存者はすべて帰国させたと言っているのに、日本は、拉致問題が解決しない限り6カ国協議の取り決めを実行しないと言っている。ブッシュが北朝鮮への態度を緩和したにもかかわらず、安倍はいまだに態度を変えず、日米の食い違いが拡大している」
アメリカでは保守派の政治家さえ、ナショナリスト(右翼)の安倍と親しくしすぎるのは良くないと言い出した」
アメリカや韓国は、北朝鮮との関係を改善したいのに、日本がでっち上げ的な拉致問題にこだわり、関係改善を妨害している」


田中宇の分析がこのあと続くが、それは実際に読んでいただくとして、その推理するモトが面白くて、スリリングだ。


ブッシュ政権の議会への影響力からすると、米議会下院に、慰安婦問題を審議するのを安倍訪米後に延期させることは十分できたはずだ。しかし現実には、下院での慰安婦問題の審議は、安倍訪米の2カ月前から開始され、ちょうど安倍訪米に大打撃を与えるタイミングで、慰安婦問題が米マスコミで騒がれた」
「米議会が慰安婦問題を採り上げたとき『これで中国や韓国の反日運動がまた扇動されるのではないか』と考えた人が多かったが、実際には、中国と韓国の反日運動は大きくなっていない。むしろ中国側では、温家宝の訪日によって日中関係は良くなりつつあると認識されている。今回の慰安婦問題は、日米関係にのみ悪影響を及ぼしている。安倍首相は、北京ではなくワシントンで中傷され、侮辱されている」


さてさて、日米関係がうまくいっていないのは、田中氏によると、首相のせいではない。ブッシュ政権がとっている「隠れ多極主義」の戦略の一つなのだ。
出た!伝家の宝刀!
つまり、アメリカはわざと日米関係を悪化させているのだ。
田中氏は、この解説をこんなふうにしめくくっている。


「経済、軍事、外交というすべての面で、日本は対米従属を脱せざるを得ない事態になりつつある。問題は、日本人の中に、日本が対米従属のみに頼るのはメリットがなくなっていることに気づかない人、新事態を見たくない人が非常に多いことである」
田中氏は自らの記事を「独自の視点で世界を斬る時事問題の分析記事。新聞やテレビを見ても分からないニュースの背景を説明します」と謳っている。
「独自の視点」で、マスコミではわからない背景を説明している、というのと、本記事で「気づかない人、新事態を見たくない人が非常に多いことである」と嘆くのは、実は同じことの裏表なのだ。
孤独であることに存在価値と絶望が共存している。